スペシャル対談 ものづくりを考える VOL.2

今回の対談では、創業してから商業印刷に特化してこられた「伊藤バインダリー」の伊藤社長に、ゼロから自社商品を作ることの大変さ、また「ものづくりコラボレーション」というプロジェクトへの参加から、世界へ商品を広めるまでのプロセスなどその時々の実体験と思いを語っていただきました。

グッドデザイン賞を受賞したことで生まれた効果

工藤
デザイン賞を受賞する前と後では、反響は違いましたか?
伊藤
反響は目に見えて…ということまではなかったですね。メディアへの露出機会は増えましたけど、売り上げに関してはビックリするほどのものはなかったですね。
それでも、お客様に対して、安心していただくという意味は大いにあったと思いますね。
工藤
注文をもらいやすくなったということですね。
伊藤
そういうことです。それまで全くの無名ブランドだし、そういったところでは効果があったのかなとも思います。あとは、社員のモチベーションが非常に上がりましたね。
工藤
今、全国で何店舗ぐらいありますか?
伊藤
グッドデザイン賞を受賞して以降、国内では広がりましたけど、最大で50〜60店舗ぐらいだと思います。

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工藤
商品を置いてもらう店舗を増やすということは、棚卸在庫も増えるということですか?
伊藤
当社商品の場合、材料となる紙さえあれば生産できる商品なので、多くの在庫をかかえていない状況です。現状はオーダーを見越して生産計画を立てるようにしております。あと、カタログ類の一般製本は一日に何万部、何十万部という数を作っていますが、この商品については、一日100冊ぐらいの生産能力です。そのため、その生産能力に合うようなかたちで、在庫を少しずつキープしているんです。

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工藤
なるほど。ちなみに海外に行こうと思ったきっかけは何だったんですか?
伊藤
海外の方が当社の商品に接したとき「すごく日本的ね」という声を聞くんです。特に伝統工芸をしているつもりもなくただ、きちんとしたものを作ろうと、一切妥協はしないよう、社内でも徹底しているだけなんですが、そういう当たり前のことをきちんとやることが、きっと海外の方には「日本らしい」と伝わっているんだな、と感じていまして。その最中、国内の展示会で、ある方から「これはフランスのメゾン・エ・オブジェという展示会の方がいいんじゃないの?」というお話をチラッと聞きまして、その後すぐに申し込みをしたのがきっかけです。
工藤
今は頻繁に?
伊藤
海外の方は多いですね。
工藤
海外の方が売れるというのはありますか?
伊藤
最近では商品全体の8割は輸出です。
工藤
超グローバル企業だ!(笑)でもそれはすごいですね。国内で広げていくよりも。
伊藤
国内でバッと広がりましたが、結局リピートがないと商売にならず、広がっても売り切れていない。おそらく商品に対するターゲットがブレていたんだと思います。全国に広げても、動くのは東京の銀座よりも西。東では動かず、特に表参道、渋谷エリア、もしくは吉祥寺エリアがすごくヒットする場所だったんです。そういったお客様が集まるエリア、もしかしたら、所得も関係しているのかもしれませんね。そうすると、東京だけでこれを動かしていても、商売としてはとても難しいので、実際にターゲット層は誰なのだと考えた際に、建築家だということが見えてきました。世界で見ると、各都市で少なくともシェアは必ずあると思ってそこに落とし込んで行こうと。そして、世界の国際見本市に出展しようと思ったのです。
工藤
海外はECサイト経由ですか?それとも卸してるんですか?
伊藤
各国の店舗と直接商談を行い、卸しています。
工藤
日本のように「売れたら」という話ではなく、もう買取で?
伊藤
そうです。国内も全て買取です。

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工藤
なるほど、そういうことなんですね。
伊藤
この文具を売ることは、日々のカタログ類を生産する製本業務とは全くやり方が違うので、そこが非常に勉強になりまた難しい面でもあります。商品を作るまでは割と「面白さ」が先行します。“売る”というのは苦しみの連続で、次々にどんどん壁が現れ、ブランド構築が必要だと勉強になりました。具体的に、対等にどう交渉をしていくか、ターゲットはブレていないか、売り場での商品コンセプトは伝わっているのか?などです。

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工藤
「ITO BINDERY」というロゴは典型プロジェクトが作ってくれたんですか?
伊藤
そうです。最初は私がゴシック書体を並べて使っていましたが、やっぱりそれでは…ということで、彼らに制作を依頼しました。ロゴは全ての商品の裏に刻印しています。もうシンプルにそれだけ。昔からの道具を多く利用しての手作りで全て作っています。一日1000個というのは、未だにできないですね。
工藤
お話を伺っていて、面白いですよね。軒にあったなんでもないメモ帳が、かっこよく言うと、軒先から世界につながっちゃったみたいなことですよね。
伊藤
そうですね(笑)
工藤
プロダクト、軒先にあったメモ帳を特化することにより、日本に広がり、世界まで行っちゃうわけですからね。
伊藤
特に海外の方とのやり取りの中で感じますが、外国の方は、「なんていい紙なの?」と、触りながら言うんですよ。そこも評価をいただいている点だと思います。しかしそれは当社の力じゃなくて、日本の素材メーカーの質の高さを感じますね。仕入れる用紙も今日電話すれば、翌日には入荷する流通だとか、きめ細かい動きができるとか。そういう少しずつの“きちんと”の積み重ねが海外の方に響くのかなと思いますね。
工藤
今後はどういう展開を考えていますか?
伊藤
まだまだ海外では知られていない商品と考えております。そのため、もっと知っていただいて、幅広く使っていただきたいと思っています。
ただし、ラインナップを一気に広げることではなく、お客様から見て、当社がどういう会社なのか、理解を更に深めていきたいですね。
工藤
面白いですね。職人の、わりと工業製品に近い美しさがありますよね。
伊藤
工業製品で、私は街を歩いていてよく思うのは、昭和初期なのかな、石造りの庁舎とか立派な会社さんはすごく素敵だと思うし、その当時に建てたサッシや窓があって、ちょっと柵がある普通の日本家屋。ああいうものも、おそらく当時は元々デザイナーさんがデザインしたものではないと思うんですよね。職人が作ったらそうなった。でもそれを今は作れない、という美しさがあったり、ガッチリしていたり。当社の商品も多分それに近いのかなと思っています。合理化、量産、そういったとこを求めていくと、もっと薄く、作りやすい、そしてもっと平べったいものになってしまうのではないかと思いますが、そういうところももっと大事にしていかないといけないのかなと思います。現場が思っている以上に。

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